生活イコールADLではない

医療や介護の分野においては生活といえばADL、それも食事や排せつ、入浴などのセルフケアのこととイコールだと理解してしまう傾向にあります。しかし、要介護高齢者が在宅生活においてセルフケアに費やしている時間は起床や就寝までの時間は2割程度であり、要介護5の状態にある人であっても3割以下なのです。つまり残りの8割程度の時間はセルフケア以外のこと、すなわち移乗や移動、外出や買い物などのiADL、人や社会との交流やTVを視たり、音楽を聴くなどの愉しみや娯楽に使っているのです。

その人らしさを考える時、この2割の部分と8割の部分のどちらが正解ということはないですが、人にとってセルフケア以外の部分が人生、生活を送る中で、大きな意味を持ち影響を与えていることがわかります。

ところが年を重ねて要介護状態となり、さらには施設に入所すると8割の部分はどんどん小さくなり、2割の部分だけで日々の生活を送ることを余儀なくされてしまうのです。これでは豊かな生活を実現し、満足のいく人生のまとめの時期に入ることは難しくなります。セルフケアが満足することは人間らしい生活を支える上で必要不可欠であり、そもそも人が生きていくためには残りの8割とは比べ物にならないほどセルフケアは重要です。それら全てを踏まえた上で、利用者の生活を活きたものにするために、作業療法士は残りの8割の部分にも意識的に関心を向けて取り組むことが大事です。